マルトの美味しさのワケを少しだけ
既成の言葉が氾濫し、その生まれた意味も分からないまま使って、生まれては消えていく。匠、スロ-フ-ド、地産地消、こだわりなど。
震災後、毎日毎回執拗に美味さを追い求めてきた。
「社長がおかしくなった」「何でだめなんですかぁ!!」と社員が言う。
それでも手を緩めず、時には大声を立てて生産ラインをストップさせる。
そんな格闘が800日を越えている。管理部門のスタッフを含め、一発で“マルトの味”にOKが出るのは月に一回もない。
今日もさつま揚げや蒸しはんぺんが、求めている味にならず生産ラインが朝から止まった。「もう一歩、しつこく考えろ!」私は妥協を許さない。
おとうふ揚げは、朝配達された豆腐を工場長がそのまま食べて、その日のポイントを“練り担当者”に指示する。そして当然担当者も食べて状態を確認する。震災の年の10月1日から再開したおとうふ揚げを1000kg、商品にしなかった事もある。製造した社員達が殺気立って私に噛み付いた。「何で廃棄なんですか!!」「こんなに一生懸命心を入れて作ったのに」「社長も一緒に作ったんじゃないですか?」「辞めるぅ、やってらんねぇ!」
翌日から格闘が始まった。「タラの声を聞け!豆腐が一番喜ぶ練り方、温度帯や時間を見つけるんだぁ!」180℃の揚げ油でやけどしながら匂いをかぎ、焼けるような熱々のおとうふ揚げを口に入れ、舌で転がし
味や香り、歯ごたえを探した。昼食が食べられないくらい試食を重ねたスタッフ達。
毎日豆腐を作っている岩手県の取引先にも電話した。彼女達も悩み続けた……それはまだ続いている。
工場長に言った「震災後はもう一歩、深く考えるんだ」「さっきやこれまでは関係ない。いつもゼロにリセットして考えるんだ」
おとうふ揚げを始め練り物に執拗に、震災前を超える美味さを追い求めてきた。スタッフも生の魚を口に入れて味や渋み、苦味やその美味さを毎回探すよう指示した。当社に方程式やマニュアルはない。
今ではそっぽを向いていた素材達が、少しずつ私達に顔を向けて微笑むようになってきた気がする。素材達のことをもう一歩、執拗に考え続けることで日々が変わっていってほしい。
スタッフ達は、しっかりしてきている。しかし日々の仕事や、生活にもっと気づきを持って欲しい…。
「もう一歩、そしてまたもう一歩、しかも自分で深く考える人間になることだよ」
我が社の素敵なスタッフ達が「被災地で力と笑顔と自ら光になる」という約束をこの地で拡げていっている。
もう一歩、もう一歩だよ。
たかが練り製品などとはもう言わせない(笑い)
2015年2月吉日
株式会社高橋徳冶商店
代表取締役社長 高橋英雄